2021/09/17

Novartis、進行性前立腺癌に対し177Lu-PSMA-617 放射性ligand 療法のQOL データ発表

9 月17 日、Novartis は、転移性去勢抵抗性前立腺癌(mCRPC)に対して、臨床開発段階にある放射性ligand 療法177Lu-PSMA-617+標準療法の併用療法に対して、標準療法のみと比較評価した第3 相VISION 試験において、ポジティブな健康関連の生活の質(HRQoL)のデータが得られたと2021 年欧州臨床腫瘍学会(ESMO 2021)で報告したと発表した。

1. mCRPC:

本疾患の患者の多くは、身体機能の低下と厳しい痛みを抱えて生活している。HRQoL と呼ばれるVISION 試験の生活の質の評価から得られたこのデータは、これらの耐え難い症状に関して、標準療法の単独群と比較して177Lu-PSMA-617+標準療法併用群の方が進行を遅らせる結果を示した。creatinine clearance の変化を含む、新たなまたは予期しえない新たな安全性上の懸念は認められなかった。

2. 177Lu-PSMA-617:

本品は、転移性去勢抵抗性前立腺癌に対するPSMA を標的とした放射性リガンド療法を臨床評価中である。これは、標的化合物(ligand)と治療用放射性同位元素(放射性粒子)を組み合わせた精密癌治療の一種である。静注投与後、177Lu-PSMA-617 は、膜貫通タンパク質PSMA を発現する前立腺癌細胞に結合することから、正常組織よりも腫瘍細胞への取り込みは高くなる。結合により放射性同位元素からの放射線の放出は、腫瘍細胞に損傷を与え、複製能力を破壊し、細胞死を惹起させるが、放射性同位元素からの放射線は、非常に短い距離で作用するため周囲の細胞の損傷を最小限に食い止めることが期待される。

3. 第3 相VISION 試験:

本試験は、177Lu-PSMA-617 [7.4 GBq を6 週間毎(Q6W)に最大6 サイクルの静脈内注入により投与]と試験担当医師が選択した標準療法を併用する治療群と、対照群の試験担当医師選択の標準療法のみとの有効性と安全性を評価する、国際的、前向き、無作為化、非盲検、多施設、第3 相試験である。PSMA PET スキャン陽性、前治療としてtaxaneおよびandrogen 受容体経路阻害剤の治療後に病勢が進行したmCRPC 患者を、2:1 の比率に無作為化し、被験薬群に多くを割り付けた。この試験の評価では、X 線写真の無増悪生存期間と全生存期間の両主要有効性評価項目を満たしていた。副次評価項目も達成された。この試験には831 人の患者が登録された。

4. 試験結果:

HRQoL のアドホック解析で、177Lu-PSMA-617+標準治療併用群は、標準治療のみ対照群比較して、ベースライン [癌治療の機能評価-前立腺(FACT-P)スケールで測定]からHRQoL の悪化のリスクを、推定で54%減少したことが示された[ハザード比(HR)=0.46、95%CI:(0.35、0.61)] 。さらに、177Lu-PSMA-617+標準療法の併用療法は、標準療法のみの対照群と比較して、ベースラインから痛みの強さ[Brief Pain Inventory – Short Form (BPI-SF)scale を測定し評価]の悪化のリスクを推定で55%減弱した[HR=0.45; 95%CI:(0.33, 0.60)]。

5. 進行前立腺癌における表現型精密医療:

前立腺癌治療の進歩にも拘わらず、mCRPC 患者の転帰を改善する新たな標的療法の選択肢に依然高いアンメットニーズが存在している。前立腺癌腫瘍の80%以上が、前立腺特異的膜抗原(PSMA)と呼ばれる表現型バイオマーカーを高度に発現しており、放射性ligand 療法は、陽電子放出断層撮影(PET)スキャン画像診断による有望な診断及び潜在的な治療の標的となっている。この手法は、癌細胞の特定の遺伝子変異を標的とする精密医療とは異なるアプローチである。(完)

(主な出典:https://www.novartis.com/news/media-releases/novartis-reports-positive-health-related-quality-life-data-177lu-psma-617-radioligand-therapy-patients-advanced-prostate-cancer-esmo-2021他)