6 月21 日、Gilead Sciences, Inc.(Gilead)は、VEKLURY(remdesivir)を投与された入院患者の死亡率と退院に関する既存の各種データへの新たな追加となる、COVID-19 入院患者の実臨床に関する 3 本の後ろ向き解析から得られた良好なデータを発表した。今週開催された世界微生物Forum(WMF)で発表された3 本の実臨床試験解析では、全患者集団でVEKLURY を投与された入院患者は対照群と比較して、死亡率が有意に低いことが確認された。この死亡率の低下は、ベースラインで受けていた酸素補給の種類を問わず観察された。本結果はパンデミックのいずれの期間やさまざまな地域で一貫して観察されたものである。また、2 本の試験でVEKLURY投与患者が28 日目までに退院する確率が有意に高まったことも確認された。
WMF 発表の3 本の実臨床データ解析は、98,654 人のCOVID-19 入院患者が対象で、このうち2 本の後ろ向き試験では、Health Verity 社とPremier Healthcare 社のデータベースから米国における治療経過および臨床転帰を観察した。3 本目の解析は、クローバル非盲検SIMPLESevere試験の拡大フェーズで、VEKLURY 10 日間投与患者と、実臨床データを用いた後ろ向きの縦断的コホート試験で標準治療患者の臨床転帰の比較がなされた。
1. Aetion 社と HealthVerity 社による解析
HealthVerity 社が Aetion 社と共同で実施した米国を基準とする実臨床データを用いた後ろ向き比較分析において、2020 年5 月1 日~2021年5 月3 日の間にVEKLURY治療を受けた COVID-19 入院患者(n=24,856)と対象群(n=24,856)の死亡率および退院の確率を評価した。対照群は、入院日、入院からVEKLURY 投与開始までの日数、年齢、性別、ベースライン時点の酸素必要量、corticoids 使用量に関するリスクセットサンプリングを用いて、VEKLURY の治療を受けた患者と1:1 にマッチングさせた。ベースライン時点の臨床的・人口統計学的特性、併存疾患、併用薬に基づいて比較可能なグループを確立するために、1:1 の傾向スコアによるマッチングが適用された。主要評価項目は、死亡までの期間とした。その結果、ベースラインの酸素必要量に関わらず、VEKLURY 群は、対照群に比べて統計的に死亡リスクが有意に23%の低下が認められた(HR=0.77、95%CI:0.73~0.81)。全般的には、VEKLURY 投与による 5 日間のフルコースを完了した患者群において、28 日目までに退院できる確率が対照群に比べて有意に高い結果となった(HR=1.19、95%CI:1.14~1.25)。またこの効果は、ベースライン時点で低流量の酸素補給を受けていた患者群において最も顕著であることが判明した。
2. Premier 社による解析:Premier Healthcare Database の実臨床データを用いた後ろ向き比較分析において、2020年8月~11月の間に治療を受けたVEKLURY群(n=28,855)とVEKLURYによる治療を受けなかった対照群(n=16,687)で死亡率を比較した。患者群は、ベースライン時点の酸素必要量、病院、2 カ月以内の入院期間でマッチングさせ、治療開始後 3 日以上入院した患者を対象に、死亡までの期間を主要評価項目とした。
本解析においてVEKLURY 投与患者群では、非投与患者群と比較して、14 日目(HR=0.76、95%CI;0.70~0.83, p<0.0001)および28 日目(HR=0.89, 95%CI;0.82~0.96, p=0.003)の死亡率が有意に低下した。また、ベースライン時点で酸素療法を必要としない(HR=0.69、95%CI;0.57~0.83, p<0.001)か、低流量酸素療法(HR=0.68, 95%CI;0.60~0.77, p<0.0001)、侵襲的人工呼吸器またはECMO(HR=0.70, 95%CI;0.58~0.84, p=0.0001)の処置を受けたVEKLURY 投与群は14 日間の死亡率が有意に低い結果となった。また、28 日目の死亡率についても、酸素療法を必要としない(HR=0.80, 95%CI;0.68~0.94, p=0.007)か、低流量酸素療法(HR=0.77, 95% CI;0.68~0.86, p<0.0001)、侵襲的人工呼吸器、またはECMO(HR=0.81, 95%CI;0.69~0.94, p=0.007)による処置を受けたVEKLURY 投与群において、有意な減少が認められた。ベースライン時点で高流量酸素療法を受けていたVEKLURY 投与群では、14 日目の死亡率は有意に低い結果となった(HR=0.81, 95%CI;0.70~0.93, p=0.0043)が 、28 日目では統計的に有意差は認められなかった(HR=0.97, 95%CI;0.84~1.11, p=0.646)。
3. SIMPLE-Severe 試験による解析
本試験は、重症の COVID-19(室内空気中の酸素飽和度94%未満、または酸素補給を受けており放射線学的に肺炎の画像所見がみられる)成人入院患者を対象に、無作為化、非盲検、多施設共同、第3 相試験で、この結果についてはすでに発表済みである。本試験では、VEKLURY の5 日間および10 日間の投与期間を評価することを主な目的としたため、初期フェーズでは標準治療の比較対照群を設けていなかった。WMF発表の後ろ向き実臨床解析では、SIMPLE-Severe 試験の非盲検拡大フェーズでVEKLURY 投与入院患者(n=1,974)と、VEKLURY 非投与入院患者を対象とした実臨床の縦断的後ろ向きコホート試験の傾向スコアで重み付けした入院患者(n=1,426)の死亡率を比較した。傾向スコアによる重み付けを行い、ベースライン時点の人口統計、地域、臨床特性、併用薬、併存疾患が一貫していることが確認された。また、死亡までの期間を主要評価項目とした。この解析では、ベースライン時点の酸素必要量に関わらず、全ての患者群においてVEKLURY 治療群は、VEKLURY 非治療群と比較して、統計的に28 日後の死亡率を54%有意に低下することが確認された(HR=0.46, 95%CI:0.39~0.54, p<0.001)。VEKLURY の10 日間投与を完了した患者群は、VEKLURY 非投与群と比較して、28 日以内の退院までの期間が有意に短かったことも示された(HR=1.64, 95% CI;1.43~1.87, p<0.001)。退院までの期間では、ベースライン時点で侵襲的人工呼吸器またはECMO 治療を受けていた患者群では有意差はなかった(HR=0.92, 95% CI;0.62~1.36, p=0.68)。
参考 placebo 対照、二重盲検ACTT-1 試験
米国国立アレルギー感染症研究所(NIAID)が実施したグローバル、無作為化、二重盲検、placebo 対照、第3 相ACTT-1 試験(NTC04280705)では、標準治療を受けている軽症、中等症または重症のCOVID-19 成人入院患者1,063 人を対象に、VEKLURY の10 日間投与の有効性と安全性についてplacebo 群と比較した。ACTT-1 試験の主要評価項目は、無作為化後29 日後までの回復までの期間とし、死亡率については事前に指定された副次的評価項目とした。試験結果および追加で行った死亡率の事後解析結果は、2020 年10 月8 日付NEJM 誌に掲載済みである。
placebo 群(n=521)と比較して、VEKLURY 群(n=541)では、29 日目の死亡率が低下する傾向が全体患者集団で見られた(11% vs. 15%、HR=0.73、95%CI;0.52~1.03)が、統計的有意差は認められなかった。全体集団における疾患の重症度に幅があることから、ベースライン時の患者の臨床状態によって死亡率に差があるかどうかを確認するため、多重検定の調整を行わない事後解析を実施した。この解析では、ベースライン時点で低流量酸素補給を必要とする患者がVEKLURY の投与を受けた場合、29 日目の死亡率が統計的に有意に70%減少した
(4% vs 13%、HR=0.30; 95%CI; 0.14~0.64)。(完)
(主な出典:https://www.gilead.com/news-and-press/press-room/press-releases/2021/6/gileads-veklury-remdesivir-associated-with-a-reduction-in-mortality-rate-in-hospitalized-patients-with-covid19-across-three-analyses-of-large-ret他)