2021年12月21日まで3か月間の株価増減率
主要グローバル製薬企業の株価は直近3か月間でファイザー(+39%)とロシュ(+10%)が好調、メルク(+6.0%)は市場(S&P500、+4.9%)を上回ったがノバルティス(+2.8%)とJ&J(+2.0%)は下回った。一方、タケダ薬品はTAK-994(ナルコレプシー治療薬)の開発中止が報じられたこともあり、マイナス19%と大幅な減少となっている。
過去5年間の株価増減率
次に過去5年間の株価推移(上図)を見ると、グローバル製薬企業は全体として市場(S&P500、+105%)を下回っているがファイザー(+82%)が今年に入って急伸、ロシュ(+66%)とJ&J(+41%)は比較的堅調であり、低調なノバルティス(+30%)とメルク(+27%)を上回った、いずれも株価下落といった異常事態は見られない。しかし、タケダ薬品はシャイーを買収した2018年の年初(6500円)から4年間で100%減少(半減)し、5年間の通算ではマイナス35%となっている。
タケダの株価はTAK-994の開発中断による影響(11%下落)だけでなく、シャイアー買収にともなう問題を反映している。医薬品業界では2018年の武田・シャイアー合併の後にも大型M&Aが続いており、2019年にはブリストルマイヤーズ・スクイブがセルジーンを買収し、5年間の株価推移はマイナス2%と低迷している。一方で、2019年にアラガンを買収したアッヴィ(+111%)とアレキシオンを買収したアストラゼネカ(+105%)の株価は市場平均を上回る好調となっている。M&Aにおける買収算定額の妥当性(のれん代発生の抑制)が反映されていると思われる。
(参考)過去5年間の株価増減率(M&A対象企業、実施年)
アストラゼネカ +105% (Alexion, 2020)
アッヴィ +111% (Allergan, 2019)
ブリストルマイヤーズ・スクイブ -2% (Celgene, 2019)
タケダ薬品 -35% (Shire, 2018)
アッヴィ +111% (Allergan, 2019)
ブリストルマイヤーズ・スクイブ -2% (Celgene, 2019)
タケダ薬品 -35% (Shire, 2018)
大型M&Aを実施した製薬企業の株価推移(過去5年間)
シャイアー買収は「のれん代」の問題にとどまらず、足元の業績にも大きく影響している。下の表にみられるように、直近の四半期(7-9月期)のグローバル製薬企業の売上収益は前年同期比10%から17%の増収と好調であり、なかにはCOVID-19ワクチンで成功したファイザー(2.3倍)やM&Aに成功したアストラゼネカ(+48%)に対して、タケダ薬品はわずか3%増にとどまっており、株価の大幅な下落は当然な結果である。
下記の表は、海外企業の直近3か月間(7-9月期)業績と比較するためにタケダ薬品の第2四半期業績から第1四半期の実績を差し引いて売上収益の伸び率を計算した結果を示している。その作業の途中で気になったのはタケダ薬品の決算短信の記述では業績の実態が分かりづらいという問題である。4-9月期の実質売上収益の前年比は0.5%増にとどまるが、決算短信の記述では4.4%増と誤解しやすくなっている。意図的ではないかも知れないが誤解を招きやすい。
下のチャートで見られる通り、タケダ薬品の株価は国内企業との比較でも見劣りしているが、業績の不透明さが影響しているものと思われる。日経平均株価が直近3か月間で6.4%下落したなかでタケダ薬品は20%近く下落している。過去5年間で見ると、第一三共(3.5倍)と中外製薬(3.3倍)が大きく伸びている。アステラス(+12%)とエーザイ(+2%)は日経平均(+44%)を下回ったがタケダ薬品(マイナス32%)はさらに低調であった。原因としてはシャイアー買収による業績悪化、開発パイプラインの実態と足元の業績に対する説明が不十分であるといった要因が総合的に影響した結果と思われる。