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2022/06/01

海外製薬産業ニュース(2022年5月)

  リリーが開発した世界初のGIP/GLP-1受容体デュアル作動薬マウンジャロ(Mounjaro、チルゼパチド注射剤)を成人の2型糖尿病治療薬としてFDAが承認した。申請用臨床試験SURPASS-2では最大の競合品となるノボノルディスクのGLP-1受容体作動薬セマグルチドを対照薬とし、ベースラインからのHbA1cの低下 2.0%(5mg投与群)~2.3%(15mg投与群)と、セマグルチド(1mg)の1.9%を上回る結果を得た。GLP-1作動薬の2021年売上高は最大製品であるリリーのトルリシティ―が28%(15億ドル)増加して64億ドルとなったものの、ノボノルディスクのセマグルチド製品が注射剤オゼンピック(44億ドル)とサキセンダ(抗肥満、9億ドル)の合計で53億ドル、さらに経口剤のライベルサス(37億ドル)を加えると90億ドルを超えてトルリシティ―を大きく上回る状況となった。リリーは今回承認された GIP/GLP-1デュアル受容体アゴニストでセマグルチド製品群に対抗することになる。一方で、ノボノルディスクは本年3月にHbA1cの減少幅 2.1%を実現したオゼンピック 2mg(倍量)製剤のFDA承認を取得、また経口剤ライベルサスは昨年の増加率が100%(倍増)と急成長しており、リリーにとっては厳しい競合となりそうだ。5月の初回承認は他にも欧州で 1品目あり、合計2品目であった。サノフィのASMD(酸性スフィンゴミエリナーゼ欠損症)に対する初めての治療法となるゼンポザイム(オリプダーゼアルファ)の承認を欧州委員会CHMPが推奨した。

 追加承認(5件)ではアストラゼネカと第一三共が提携するHER2標的ADC抗体薬エンハーツのHER2陽性転移性乳がん患者に対する二次治療のFDA承認が注目される。2019年の初回承認は2回以上の抗HER2療法を経た転移性乳がん患者に対する三次療法だった。その後、2021年に胃がん効能追加が承認された。本年4月には肺がんの追加申請、さらにHER2低発現の乳がん患者への適応拡大が控えている。ノバルティスのCAR-T細胞療法キムリアは 3番目の適応症として再発性または難治性の濾胞性リンパ腫の成人患者に対する治療が承認された。ブリストルマイヤーズ・スクイブのPD-1阻害薬オプジーボは二つのレジメン(化学療法剤またはCTLA-4阻害薬ヤーボイとの併用)で切除不能な進行性または転移性食道扁平上皮がんの第一選択治療が承認された。サノフィの抗IL-4/13受容体抗体デュピクセントの好酸球性食道炎が承認された。ロシュの脊髄性筋萎縮症(SMA)治療薬Evrysdiの2ヶ月未満乳児への使用が承認された。

 その他の薬事では新薬の初回承認申請が2件あり、エーザイは昨年9月に開始していた抗 Aβプロトフィブリル抗体の早期アルツハイマー症治療薬レカネマブのローリング申請が完了したと発表。もう1件の初回申請はアッヴィの進行性パーキンソン病治療薬で持続性の皮下投与を特徴とするレボドパとカルビドパの合剤 ABBV-951である。追加承認の申請2件はいずれも抗がん剤である。アストラゼネカがPD-1阻害薬イムフィンジと化学療法剤の併用による胆道がん患者の治療、バイエルが前立腺がん治療薬ダロルタミド(販売名:ニュベクオ)とドセタキセルの併用による転移性ホルモン感受性の患者への適応拡大を申請した。現在のダロルタミド適応症はホルモン非感受性(去勢手術不適応)の患者に限定されている。

 申請用臨床試験では抗IL-23抗体、S1P受容体作動薬、さらにJAK阻害薬がいずれも潰瘍性大腸炎を標的効能として最終段階の好成績を発表している。リリーは抗IL-23抗体ミリキズマブが申請用第3相試験において患者の50%が1年で臨床的寛解を達成、ファイザーは S1P作動薬エトラシモドが52週間の投与で臨床的寛解率32%を達成しクラス最高のプロファイルを実証したと発表した。アッヴィのJAK阻害薬リンボックはすでに3月に米国で承認されているが欧州承認にむけてす既発表の臨床成績をまとめてランセット誌に掲載した。これまでに、抗TNFα抗体のレミケード(2005年)とヒュミラ(2012年)、抗インテグリン抗体エンティビオ(2014年)、JAK阻害薬ゼルヤンツ(2018年)、抗IL-23抗体ステラーラ(2019年)、S1P受容体作動薬ゼポシア(2021年)が潰瘍性大腸炎の適応症を取得している。

 経営事項およびビジネス案件ではファイザーが経口CGRP阻害薬の片頭痛治療薬の開発に成功したバイオヘイブンを一時金116億ドル(ほぼ1兆5000億円)、グラクソが次世代肺炎球菌ワクチンに取り組むバイオテク企業を33億ドル、という企業買収を発表した。ジョンソンエンドジョンソンは大衆薬事業の分離に向けて設立する専業子会社のCEOとCFOを任命した。リリーは本拠地のインディアナ州で21億ドルを投じて新しい製造拠点を建設する計画を発表した。