ファーマセット・リサーチが集計した2015年の製薬企業ランキングによると,トップ10の6位にギリアド、10位にアッヴィが登場した。一方、M&Aを繰り返しながら巨大化してきたファイザーはアラガン買収に失敗して低迷、メガファーマ時代の転換点を見るような一年だった。M&Aによる再編機会が枯渇し、成長の余地はがん、自己免疫に加えて循環代謝、中枢系にまでおよぶ抗体・バイオ医薬の開発に絞られてきた。先行するロシュはバイオシミラーの影響を受けながらも2020年ランキングの首位に立つと予想される。
5年間のランキング変動
2010年のトップ10ランキングでは番外だったギリアドとアッヴィが2015年はそれぞれ6位と10位に登場、脱落したのは後発品の攻勢で主力製品が激減したリリーとブリストルマイヤーズ(BMS)だった。この5年間で13位まで転落したリリーはピーク時年商50億㌦(5000億円)の神経障害治療薬「サインバルタ」、14位となったBMSは向精神薬「エビリファイ」28億㌦(大塚製薬から導入)が特許終了となり、それぞれ最大製品の減収額が企業決算に直結した。他にもコレステロール低下剤「リピトール」(ファイザー、107億㌦)、降圧剤「ディオバン」(ノバルティス、60億㌦)、喘息治療薬「シングレア」(メルク、55億㌦)など低分子の主力製品が特許終了となり、各社の業績を圧迫する「2012年問題」となった。
躍進した企業の鍵はアンメット・メディカルニーズと抗体医薬だった。HIV治療薬を専門としてきたギリアドの医療用医薬品合計は2014年に前年比2.3倍となり、ランキング9位に初登場した。発売初年度から100億㌦を超えたC型肝炎治療薬「ソバルディ」(NS5Bポリメラーゼ阻害薬)が貢献した。2015年にはソバルディにNS5A阻害薬を配合した「ハーボニー」が130億㌦を超え、ソバルディを加えた合計は190億㌦となった。すでに2010年にはアッヴィの最大製品となっていた抗TNFα受容体抗体「ヒュミラ」の売上高は5年間で倍増し2015年は140億ドルを超えた。グローバル製品ランキングでは2012年から首位の座にある。アッヴィの医療用医薬品売上高は5年間で72億㌦増加したが、すべてヒュミラの貢献だった。
トップ5の顔ぶれは変わらないものの、ロシュ以外の最大手4社は大規模のM&Aを行い、「2012年問題」による大幅な売上減少に対応してきた。2009年には1位ファイザーが11位ワイスを合併して首位を固め、7位メルクは12位シェリング・プラウと合併して3位へ飛躍した。2010年には2位ノバルティスが眼科で最大手のアルコンを、5位サノフィは三大バイオテク企業の一角を占めるGenzymeを2011年に合併した。一方、先行して抗体・バイオ医薬へ集中していたロシュは2002年の中外製薬買収で再編を完了し、2012年問題に影響される主力製品はなかった。2009年まで2位だったロシュのランキングは競合企業の2010年再編・大型化によって5位まで低下したものの、2015年には3位まで回復している。
2020年予想の前提
メガファーマ12社(米国6社:ファイザー、メルク、ヤンセン、リリー、BMS、アッヴィ、スイス2社:ノバルティス、ロシュ、英国2社:GSK、アストラゼネカ、フランス1社:サノフィ、ドイツ1社:バイエル)の医療用医薬品を合計すると2015年は4年連続減少して3500億㌦(35兆円)となった。しかし、決算通貨(ユーロ)では二桁増収だったバイエルとサノフィがドル換算では減収になるなど、急速なドル高の影響を除外すると前年を上回っていた。2012年問題から3年続いた低迷に終止符が打たれた背景には二つの要因、①すでに激減していた低分子の主力製品が横ばいに推移した、②アッヴィの抗リウマチ薬ヒュミラを筆頭に抗体医薬が成長を持続したことがあった。
今後5年間の業績予想では、①低分子医薬品が底打ちした既存製品は全体として横ばいを維持する、②バイオシミラーの影響は価格低下による数量増によって緩和される、③抗体医薬を中心とする開発パイプラインの新薬が市場を拡大する、以上3点が重要な前提となる。2020年のメガファーマ12社合計は、既存製品34兆円(微減)に開発パイプラインのポテンシャル3兆円(ベストケース5兆円)を加えた37兆円と予想した。過去5年間は年間成長率がマイナス1%と低迷したが、これからの5年間は年率2%を上回る成長が期待される。
企業別予想
抗がん剤を中心に抗体医薬の開発パイプラインが充実している企業の好調が見込まれる。2015年3位のロシュが2020年には首位に立つ、またBMSがトップ10に復帰して9位になると予想される。いずれも腫瘍免疫療法の最先端を行くPD-1関連の抗がん剤が注目されており、BMSはPD-1受容体を、ロシュはリガンドのPD-L1をそれぞれ標的とする抗体医薬が大型化する。ヤンセン(J&J)は抗リウマチ薬「エンブレル」が特許終了となったものの乾癬治療薬「ステラーラ」が好調、さらに開発段階の抗リウマチ薬シルクマブなど、多数の抗体医薬が貢献して7位から4位へと躍進する。
メガファーマ時代の転換点
ファイザーとメルクはそれぞれ抗体医薬のPD-1関連抗がん剤が貢献するものの、「リリカ」(神経性疼痛、4800億円)や「ジャヌビア」(糖尿病、6000億円)といった低分子製品への依存が大きく、全体の成長には限界がある。ノバルティスで注目される抗体医薬は「コセンティクス」(乾癬、200億円)と導入品の「ルセンティス」(加齢黄斑変性症、2000億円)のみであり、バイオシミラーを含めて開発パイプラインにも乏しい。企業としての成長は欧米のガイドラインで一次選択薬となった慢性心不全治療薬「エントレスト」にかかっている。
この3社はそれぞれ2010年再編で大型M&Aに成功し、トップ5の上位を占めてきた。しかし、その後ファイザーは2012年にアストラゼネカ、2015年にはアラガンに対するM&Aに失敗している。いずれも反グローバル主義が台頭する政治情勢が強い逆風となった。アルコン買収で眼科領域に進出したノバルティスは統合による相乗効果を実現できず、同事業を再考中である。これまで大型再編によって成長を加速してきたメガファーマをとりまく環境は厳しさを増している。今後の成長には、自己免疫疾患やC型肝炎の例に見られたように様々なアンメット・ニーズに焦点を合わせて市場を創成できる広範かつ機敏な経営対応力が必要となりそうだ。
躍進した企業の鍵はアンメット・メディカルニーズと抗体医薬だった。HIV治療薬を専門としてきたギリアドの医療用医薬品合計は2014年に前年比2.3倍となり、ランキング9位に初登場した。発売初年度から100億㌦を超えたC型肝炎治療薬「ソバルディ」(NS5Bポリメラーゼ阻害薬)が貢献した。2015年にはソバルディにNS5A阻害薬を配合した「ハーボニー」が130億㌦を超え、ソバルディを加えた合計は190億㌦となった。すでに2010年にはアッヴィの最大製品となっていた抗TNFα受容体抗体「ヒュミラ」の売上高は5年間で倍増し2015年は140億ドルを超えた。グローバル製品ランキングでは2012年から首位の座にある。アッヴィの医療用医薬品売上高は5年間で72億㌦増加したが、すべてヒュミラの貢献だった。
トップ5の顔ぶれは変わらないものの、ロシュ以外の最大手4社は大規模のM&Aを行い、「2012年問題」による大幅な売上減少に対応してきた。2009年には1位ファイザーが11位ワイスを合併して首位を固め、7位メルクは12位シェリング・プラウと合併して3位へ飛躍した。2010年には2位ノバルティスが眼科で最大手のアルコンを、5位サノフィは三大バイオテク企業の一角を占めるGenzymeを2011年に合併した。一方、先行して抗体・バイオ医薬へ集中していたロシュは2002年の中外製薬買収で再編を完了し、2012年問題に影響される主力製品はなかった。2009年まで2位だったロシュのランキングは競合企業の2010年再編・大型化によって5位まで低下したものの、2015年には3位まで回復している。
2020年予想の前提
メガファーマ12社(米国6社:ファイザー、メルク、ヤンセン、リリー、BMS、アッヴィ、スイス2社:ノバルティス、ロシュ、英国2社:GSK、アストラゼネカ、フランス1社:サノフィ、ドイツ1社:バイエル)の医療用医薬品を合計すると2015年は4年連続減少して3500億㌦(35兆円)となった。しかし、決算通貨(ユーロ)では二桁増収だったバイエルとサノフィがドル換算では減収になるなど、急速なドル高の影響を除外すると前年を上回っていた。2012年問題から3年続いた低迷に終止符が打たれた背景には二つの要因、①すでに激減していた低分子の主力製品が横ばいに推移した、②アッヴィの抗リウマチ薬ヒュミラを筆頭に抗体医薬が成長を持続したことがあった。
今後5年間の業績予想では、①低分子医薬品が底打ちした既存製品は全体として横ばいを維持する、②バイオシミラーの影響は価格低下による数量増によって緩和される、③抗体医薬を中心とする開発パイプラインの新薬が市場を拡大する、以上3点が重要な前提となる。2020年のメガファーマ12社合計は、既存製品34兆円(微減)に開発パイプラインのポテンシャル3兆円(ベストケース5兆円)を加えた37兆円と予想した。過去5年間は年間成長率がマイナス1%と低迷したが、これからの5年間は年率2%を上回る成長が期待される。
企業別予想
抗がん剤を中心に抗体医薬の開発パイプラインが充実している企業の好調が見込まれる。2015年3位のロシュが2020年には首位に立つ、またBMSがトップ10に復帰して9位になると予想される。いずれも腫瘍免疫療法の最先端を行くPD-1関連の抗がん剤が注目されており、BMSはPD-1受容体を、ロシュはリガンドのPD-L1をそれぞれ標的とする抗体医薬が大型化する。ヤンセン(J&J)は抗リウマチ薬「エンブレル」が特許終了となったものの乾癬治療薬「ステラーラ」が好調、さらに開発段階の抗リウマチ薬シルクマブなど、多数の抗体医薬が貢献して7位から4位へと躍進する。
メガファーマ時代の転換点
ファイザーとメルクはそれぞれ抗体医薬のPD-1関連抗がん剤が貢献するものの、「リリカ」(神経性疼痛、4800億円)や「ジャヌビア」(糖尿病、6000億円)といった低分子製品への依存が大きく、全体の成長には限界がある。ノバルティスで注目される抗体医薬は「コセンティクス」(乾癬、200億円)と導入品の「ルセンティス」(加齢黄斑変性症、2000億円)のみであり、バイオシミラーを含めて開発パイプラインにも乏しい。企業としての成長は欧米のガイドラインで一次選択薬となった慢性心不全治療薬「エントレスト」にかかっている。
この3社はそれぞれ2010年再編で大型M&Aに成功し、トップ5の上位を占めてきた。しかし、その後ファイザーは2012年にアストラゼネカ、2015年にはアラガンに対するM&Aに失敗している。いずれも反グローバル主義が台頭する政治情勢が強い逆風となった。アルコン買収で眼科領域に進出したノバルティスは統合による相乗効果を実現できず、同事業を再考中である。これまで大型再編によって成長を加速してきたメガファーマをとりまく環境は厳しさを増している。今後の成長には、自己免疫疾患やC型肝炎の例に見られたように様々なアンメット・ニーズに焦点を合わせて市場を創成できる広範かつ機敏な経営対応力が必要となりそうだ。