9 月30 日、Eli Lilly & Co. Ltd.(Lilly)は、、成人の2 型糖尿病患者を対象に、tirzepatide を
評価した第3 相SURPASS-3 試験のCGM sub-study でTime in Range(71~180 mg/dL)を有意に延長、ならびに同試験のMRI sub-study で肝脂肪含量を有意に改善する結果が得られ、これらの結果を、第57 回欧州糖尿病学会(EASD)年次総会で発表したとプレスリリースした。
1. tirzepatide:
本品は、glucose-dependent insulinotropic polypeptide(GIP)とglucagon-like peptide-
1 (GLP-1)の両incretin の作用を単一分子に統合した週1 回投与のdual GIP/GLP-1 受容体作動薬である。GIP は、GLP-1 受容体作動薬の効果を補完するhormone で、前臨床モデルにおいて、GIP は食物摂取量を減少させエネルギー消費を増加させることが示されているため、体重の減少をもたらすと考えられる。また、GLP-1 受容体作動薬との併用によりglucose と体重に対してより大きな効果をもたらす可能性がある。tirzepatide は、成人2 型糖尿病患者の血糖管理と慢性的体重管理のための第3 相試験が進行中である。また、non-alcohol 性脂肪肝炎(NASH)および左室駆出率の保たれた心不全(HFpEF)の治療薬としても研究されている。
2. SURPASS-3 試験:
SGLT-2 阻害薬の併用の有無に関わり無く、維持用量のmetformin では血糖管理が不十分な成人2 型糖尿病患者を対象に、tirzepatide の有効性および安全性をinsulin degludec の漸増投与と比較評価した52 週の、多施設共同、無作為化、第3 相、非盲検試験である。被験者はinsulin による治療歴が無く、糖尿病の平均罹病期間は8.4 年、ベースラインのHbA1c は8.17%、ベースラインの体重は94.3 kg であった。
1) CGM sub-study; 本sub-study では、243 人の部分集団において、ベースライン、24 週時、52 週時に7~10 日間にわたりCGM を装着し、insulin degludec と比較した高血糖域または低血糖域の時間および血糖変動に対するtirzepatide の有効性を評価した。血糖変動は、変動係数(CV)を含むいくつかの指標をもとに24 時間にわたり評価され、主要評価項目および副次評価項目を達成した。tirzepatide 投与被験者における、52 週時の主要評価項目の詳細な結果は以下の通りであった。
(1) 10 mg と15 mg の併合群は、24 時間の血糖値の厳格な目標域(71~140 mg/dL)を満たす時間の割合は72.6%で、insulin degludec 群の48.0 %よりも平均約6 時間長いことが示された。追加の探索的評価項目では、tirzepatide 投与被験者において52 週時に以下の結果が示された。
① 24 時間のうちTime in Range(71~180 mg/dL)を満たす時間の割合は、tirzepatide 3 用量投与群で84.9~91.2%に対し、insulin degludec 群で84.9~91.2%に対し、insulin degludec 群は75%で、何れも有意な差が認められた。
② tirzepatide 3 用量投与群全てで、insulin degludec 群と比較して低血糖の時間が短縮された。血糖値が70 mg/dL 以下の時間の割合は、tirzepatide 群が0.6~1.0%、insulin degludec 群が2.4%で、何れも有意差が認められた。血糖値が54 mg/dL 以下の時間の割合は、tirzepatide 群で0.11~0.14%、insulin degludec 群で0.39%であった。
③ insulin degludec を投与した被験者では変動計数(CV)の増加がみられたのに対し、
tirzepatide 3 用量投与群では24 時間のうちにCV の有意な減少(0.9~3.4%)が認められた。
④ SURPASS-3 試験におけるtirzepatide の全体的な安全性プロファイルは、これまでに確立されたGLP-1 受容体作動薬の薬剤クラスと同様であった。最も多く報告された有害事象は消化器系の副作用であり、投与継続に伴い減少した。
2) 米Park Nicollet.国際糖尿病センターExecutive Director Dr. Richard Bergenstal のコメント;「「SURPASS-3 試験のsub-study を通じて収集されたCGM データから、tirzepatide により患者の1 日の血糖変動が少なくなり、血糖値が目標域を下回る時間が短いことや、血糖値が正常であることを反映している厳格な目標域を満たす時間が長いことが示された。2 型糖尿病の管理において、血糖変動の改善、Time in Range を満たす時間の延長、および血糖値が目標域を下回る時間の短縮は重要な指標である。なぜなら、これらの指標は1 日を通した血糖管理を反映しており、HbA1c が示す過去3 カ月の血糖値の平均以上の情報を把握することができるからである」と述べている。
3) MRI sub-study; 本sub-study では、SURPASS-3 試験の部分集団を対象にtirzepatide とinsulin degludec 漸増投与の有効性について、LFC、VAT、ASAT をMRI スキャンの評価を用いて比較した。対象は、脂肪肝指数(Fatty Liver Index)が60 以上の成人2 型糖尿病で、LFC 上昇のリスクの高い被験者であった。296 人の被験者が本sub-study に登録され、tirzepatide 5 mg、10 mg、15 mg またはinsulin degludec 投与群のいずれかに無作為に割り付けられた。主要評価項目は、MRI スキャンで測定したベースラインから52 週時のLFC 割合の変化に対するtirzepatide(10 mg および15 mg の併合群)の効果をinsulin degludec と比較することであった。副次評価項目は、LFC が10%以下になった被験者の割合、LFC がベースラインから30%以上相対的に減少した被験者の割合、ベースラインからの内臓脂肪組織量および皮下脂肪組織量の変化で、tirzepatide 5 mg、10 mg、15 mg とinsulin degludec と比較した。tirzepatide 投与被験者における52 週時の結果は、以下の通りであった。
① 主要評価項目である10 mg および15 mg 併合群のLFC のベースラインからの絶対的減
少(ベースラインの15.67%から-8.09%)は、insulin degludec 群(ベースラインの16.58%から-3.38%)と比較して有意に大きいことが示された。
② LFC のベースラインからの相対的減少(tirzepatide 3 用量群で29.78%~47.11%)は、insulin degludec 群の11.17%と比較し、何れも有意に大きいことが示された。
③ ベースラインから少なくとも30%のLFC の減少を達成した被験者は、tirzepatide の3 用
量群で66.9%~81.4%であったのに対し、insulin degludec 群では32.12%であった。
④ VAT は、insulin degludec 群でベースラインの6.34 L から+ 0.38 L の増加に対し、tirzepatide群(15 mg)ではベースラインの6.81 L から最大-1.65 L へ有意に減少した。ASAT は、insulin degludec 群でベースラインの10.04 L から+0.63 L の増加に対し、tirzepatide 群(10 mg)ではベースラインの10.21L から-2.25 L 減少した。
⑤ SURPASS-3 試験におけるtirzepatide の全体的な安全性プロファイルは、これまでに確立されたGLP-1 受容体作動薬の薬剤クラスと同様であった。最も多く報告された有害事象は消化器系の副作用であり、投与継続に伴い減少した。
4) Lilly 糖尿病部門上級医学部長Dr. Laura Fernández Landóのコメント;「本試験では、insulin degludec を投与した被験者に比べて、tirzepatide 投与被験者の2 倍以上が肝脂肪含量を30%以上減少させた。本結果により、成人2 型糖尿病患者におけるtirzepatide の潜在的な代謝効果について理解を深めることができた。今後も、血糖や体重の管理以外のtirzepatide の効果を継続的に研究していきたいと思う」と述べた。(完)
(主な出典:http://lilly.mediaroom.com/2021-09-30-Lillys-tirzepatide-led-to-greater-time-in-range-compared-to-insulin-degludecc-in-adults-with-type-2-diabetes-in-SURPASS-3-CGM-sub-study他)